第一生命の企業概要
第一生命とは、万一の際の生命保険や、医療・介護保険をメインに取り扱う大手生命保険会社です。商品は資産形成に役立つものや、ペットの保険等、多数の保険商品ラインナップを持ち、営業は「生保レディ」と呼ばれる対面を重視したスタイルです。
企業概要は下表の通りです。
企業名 | 第一生命ホールディングス株式会社 |
---|---|
設立 | 1902年(明治35年)9月15日 |
資本金 | 3,440億円(2023年6月26日現在) |
従業員 | 60,99名(2023年3月時点 連結) |
主な事業 | 生命保険業免許に基づく次の(ア)〜(カ)にある各種保険業の引受を行うとともに、保険料として収受した金銭その他の資産の運用 (ア)個人保険 (イ)個人年金保険 (ウ)団体保険 (エ)団体年金保険 (オ)その他の保険 (カ)上記各種保険の再保 |
第一生命の事業内容
第一生命は多様な商品を揃えていますが、事業内容を大きく分けると国内保険事業と海外保険事業ということになります。それぞれのマーケットで戦略が異なりますので、その点を見てみます。
- 国内保険事業
- 海外保険事業
国内保険事業
国内保険事業は、第一生命のメインとなる事業であり、セグメント別経常収益構成比の円グラフが示す通り、約7割の規模を占めます。
出典:第一生命
国内の保険市場は、生産年齢人口の減少に伴い縮小傾向にあると予想されています(出典:金融庁)。そのような状況に対し、第一生命だけでなく大手生命保険会社は、商品ラインナップの充実や、伝統的な生保レディー以外の販売チャネル拡大といった戦略をとっています。
差別化が難しい中、第一生命は中期経営計画において、「保険ビジネスモデルの抜本的転換」としてCX(Customer Experience)の向上や生涯設計を掲げています(出典:第一生命HD 中期経営計画)。
海外保険事業
海外保険事業については、 M&Aを通じて拡大を図っており、今後の大きな成長分野として位置付けられています。先進国においては安定的な成長を見込み、アジアを中心とした新興国市場では、急激な経済成長とそれに伴う保険ニーズの高まりから大きな成長が期待されています。
2007年にベトナムにグループを設立したことを皮切りに、タイ、インド、インドネシア、カンボジアといった国に進出し、上に示した円グラフの通り経常収益では約23%の規模に成長しています。
第一生命の業績推移|経常収益・経常利益
第一生命ホールディングスの連結の業績を見てみましょう。以下のグラフは、過去5年の経常収益のグラフです。経常収益とは、保険料等収入、資産運用収益、その他に区分される、毎年継続的に発生する収益のことです。
グラフを見ると、急な増加や減少もなく、安定的に増加していることが分かります。
■経常収益の推移
出典:第一生命
一方、経常利益を見ると、経常収益とは異なる傾向が把握できます。経常収益から費用を差し引いたものが経常利益ですが、下のグラフを見ると2019年と2022年に大きく減少しています。
これはどちらも新型コロナウイルスの影響を受けたもので、2019年は対面営業が難しくなったことや、グローバルでの経済低迷により資金運用が低迷したことが原因です。
また、2022年の落ち込みは新型コロナウイルスに関する入院給付金等の支払い増加によるものです。
■経常利益の推移
出典:第一生命
第一生命の株価推移|過去10年のチャート
次に第一生命の株価の推移をチャートで追ってみましょう。経常利益で言及したように、第一生命も他企業と同様に新型コロナウイルスの世界的蔓延の影響を受けており、感染拡大前と後に分けて観察してみます。
なお、生命保険業界は相互会社形態で上場していない企業(例:日本生命、明治安田生命)もあり、株価関連情報で同業比較が難しい点があることも補記しておきます。
- 2013〜2019年にかけて株価が横ばい
- 2020年〜2023年にかけて株価が上昇
2013〜2019年にかけて株価が横ばい
新型コロナウイルスの感染が拡大する前の株価チャートは、上昇と下落を繰り返してはいますが、長期的には横ばいと言えます。一般的にボックス相場と呼ばれる状態です。
貯蓄性保険に特化したグループ会社の第一フロンティア生命の成長、海外におけるM&Aや新型保険の投入等の施策、資産運用の成績等が株価に影響を与えています。
新型コロナウイルスが拡大する前は、下降基調から回復する兆しを見せていた時期でしたので、2019年12月に中国で初めて症例が報告されてから瞬く間に広がったは、第一生命に打撃を与えました。
出典:Yahoo!ファイナンス
2020年〜2023年にかけて株価が上昇
新型コロナウイルスにより、対面営業ができないことや、経済全体の低迷により契約で集めた資金の運用も低調な成績となったことで、第一生命の株価も落ち込みました。しかし2020年以降は2倍以上の上昇を示しています。
出典:Yahoo!ファイナンス
株価上昇の理由は、後ほど説明する株主向けの施策に加え、2021年度からの中期経営計画における業務推進も挙げられます。
特徴的なのは国内向け保険の商品をラインナップにペット保険が加わったことです。2022年に、ペット保険業界2位のアイペットの買収を発表しています。
ペット保険市場は毎年10%程度の成長率を示していることからも、有望なマーケットです。ただし、新規参入も増えていることから、今後も好調を維持できるかは不透明です。
また、海外市場でも前述の通り買収を通じた成長を継続していることから、株価にもその影響が反映されていると考えられます。
第一生命の株主還元|配当・自社株買い
第一生命は、株主還元施策として積極的に配当や自社株買いを行っています。予想含めた5年間において、その詳細や傾向について確認してみます。なお、PBRは日本証券取引所が期待する1.0倍をわずかに下回る0.96倍ですので、株主還元施策は今後も継続されることが見込まれます。
- 第一生命の一株配当・配当利回り推移
- 第一生命の自社株買い推移
第一生命の一株配当・配当利回り推移
第一生命の一株あたりの配当金は下の表のように推移しています。特徴的なのは、経常利益が落ち込んだ2022年度や、新型コロナウイルスの影響が読みきれない時期にも減配していない点です。
各3月期 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
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一株あたり配当金 | 62.0 | 62.0 | 83.0 | 86.0 | 86.0(予定) |
出典:Yahoo!ファイナンス
減配しないことは株主還元施策で謳われており、投資家にとっては強い安心材料と言えるでしょう。
出典:第一生命
配当利回りについても毎期3%前後を維持しており、東証1部上場企業の平均より高く、安定していると言えます。
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各3月期 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
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配当利回り | 3.83% | 3.99% | 3.60% | 3.35% | 2.75%(予想) |
出典:みんかぶ
第一生命の自社株買い推移
次に第一生命の自社株買いの推移を見てみます。こちらも特徴があり、毎年自己株式の取得を行っています。
自社株買いは市場に流通する株式を減らすことで買い占めによる買収を防ぐ目的であることもありますが、第一生命ほどの規模であれば投資家還元が目的となります。自社株買いで市場の株式流通量を減らすことで、一株あたりの資産や利益が上昇し、それが更に株価の押し上げ要因になれば、中長期的に株主利益を高めることになります。
▼スクロールできます
各3月期 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
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自己株式取得額(億円) | 390 | 280 | 300 | 2,000 | 1,200 |
出典:第一生命 2023年分
出典:第一生命 2022年分
出典:第一生命 2021年分
出典:第一生命 2020年分
出典:第一生命 2019年分
第一生命の株価はなぜ上がるか理由を解説
ここからは、第一生命の株価がなぜ上がるのかを解説していきます。株価が上がるということは、将来的に成長余地があると投資家が見ていることが要因として大きいので、どのようなポイントで成長期待があるかという観点で確認します。
- 成長余地のある海外市場拡大の期待がある
- 国内の新規マーケットであるペット保険を拡大
- 安定した株主還元策に加え株価指標が割安
成長余地のある海外市場拡大の期待がある
国内市場が飽和する中で、海外市場の開拓に積極的な点は将来成長が期待できる点です。2015年に5,800億円で行ったアメリカのプロクティブ社の買収は、当時日本の生命保険会社におけるM&Aで最大規模でした。そのプロクティブ社は5年で純利益が1.7倍となり、着実な成長を遂げています(出典:第一生命)。
また、今後の大きな成長が期待されるアジア地域では、経済の発展に伴い保険ニーズも高まることが予想され、こちらも事業の拡大が予想されます。
尚、M&Aを国内の保険会社同士で行おうとすると商品ラインナップが重なるためその効果は限定されてしまうことから、実施するなら海外ということになります。海外でのM&Aを仕掛けられるほどの財務余力を持つことが、第一生命の強みです。
国内の新規マーケットであるペット保険を拡大
国内は飽和市場と述べましたが、既存にないマーケットを新たに開拓することができれば成長余地があります。その1つがペット保険です。ペット保険市場は先述の通り拡大が続いており、有望なマーケットです。
出典:日経新聞
新規市場には他の保険会社も参入し、競争は激しくなっていますが、第一生命が当時、業界2位のアイペットを買収したのが2022年ですので、他社に遅れを取らずにマーケット開拓できていることも大きいでしょう。保険商品のラインナップが多ければ、ペット保険をドアノックとして新規顧客を獲得し、他の保険の併売も期待できます。
出典:日経新聞
安定した株主還元策に加え株価指標が割安
第一生命の株価が上がる要因としては、やはり配当や自社株買いの株主施策があります。これに加え、株価にはまだ割安感があることもポイントです。
一般的に、PER(株価収益率)が15.0倍を下回るとその銘柄は割安であると言われますが、2023年11月10日時点で第一生命のPERは11.0倍となっています(出典:Yahoo!ファイナンス)。
PBR(株価純資産倍率)についても、1.0倍が目安となりそれを下回ると割安と言われています。同じく2023年11月10日時点で第一生命の PBRは0.96倍となっていることから、2つの指標で割安であることが示されています。
第一生命の株価に対する投資家の口コミ
ここでは、第一生命株を実際に保有している投資家の口コミから、どのような点を評価しているのか、リスクはどう見ているのかといったことを探ってみましょう。
短期売買の投資家は日々の株価に一喜一憂していますが、中長期目線の投資家のコメントは総じて期待を持って保有しているようです。特に自社株買いについては、前向きな反応が見受けられました。
一方で、リスクとしてコメントされていたことは、金利の動きや、海外の投資家の動向、イスラエルのガザ侵攻による政情不安による影響です。これらの事象は保険業界のみに影響するものではありませんが、引き続き大きな動きがあるはずですので注視が必要です。
第一生命の株価は今後どうなる?
第一生命の株価が今後どうなるのか、事業環境や株主還元施策の観点から推察してみます。それにより、今後購入、或いは保持すべき銘柄かどうかということについて考察を行います。
- 海外事業の拡大が成功することで株価は上がる
- 時価総額10兆円目標は株主還元の継続を期待させる
海外事業の拡大が成功することで株価は上がる
生命保険業界について、国内市場が劇的に拡大することは考えにくいです。第一生命も、みずほフィナンシャルグループと連携した顧客の資産形成にも踏み込んで、顧客接点の強化を中期経営計画において掲げています。しかし、市場規模は限られるため、他金融機関との競争環境は厳しいです。
出典:第一生命
ペット保険への参入は一時的に好材料でしたが、後続の参入が相次いでいるため、いずれ収益は上げにくくなるでしょう。
そのような環境下で期待されるのは、やはり海外マーケットです。第一生命ホールディングスの菊田社長は、2023年のインタビューにおいて、2030年までにグローバルでトップレベルの保険会社になることや海外事業の利益比率を5割に高めることについて言及しています(出典:読売新聞)。
海外事業の伸長による収益の向上を図ることができれば、第一生命の株価は高まるでしょう。但し、海外におけるM&Aの機会が頻繁にあるわけではないことや、目利きが難しいという点が懸念事項です。
時価総額10兆円目標は株主還元の継続を期待させる
第一生命ホールディングスの菊田社長は、2030年度には株式時価総額10兆円を目指すことを宣言しています(出典:四季報)。前述の海外事業における成長や、資本効率の改善等の施策によって実現を目指すことになりますが、積極的な株主還元も1つの手段になることが推測されます。
安定的な業績だけでなく、配当や自己株式の取得が継続されれば、投資家の信任を集めて株価の維持にもつながるでしょう。グローバルで保険業界トップクラスを目指すという目標は、株価上昇を期待させるものとなります。
第一生命の業績・株価・配当についてまとめ
ここまで第一生命の株価について、事業内容や業績、株価の分析や口コミから考察してきました。現状では、株価に期待を抱かせる材料があり、今後の成長余地もあることから、有望な銘柄の1つと言えそうです。
ただし、今後の業績は海外マーケットに依存することもあり、M&A等の戦略は不確実性も高いことから、中長期でのリスクは決して低くはありません。銘柄を保有するにあたっては、海外の保険マーケットに関する情報も随時収集する必要があるでしょう。
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