日本郵政の企業概要
日本郵政とはもともと国営で行われてきた郵政三事業(郵便・簡易保険・郵便貯金)を民営化する取り組みにともない、2007年に日本郵政グループとして設立しました。その後日本郵便株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命)に移管します。
民主党連立政権の発足にともない二転三転したものの、2015年にこれらの親会社の立ち位置で日本郵政が株式を上場、民間企業となりました。民間企業でありながら財務大臣が一定の株価を有し、また国営化時代のインフラを活用しているという視点では、きわめて特殊性の高い企業といえます。
2023年現在、日本郵政グループの下に日本郵政株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命が上場企業として存在しています。本記事ではそのうち、日本郵政株式会社について分析します。
正式名称 | 日本郵政株式会社 |
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本社所在地 | 東京都千代田区大手町二丁目3番1号 |
資本金 | 3兆5,000億円 |
従業員数 | 1,485名(2023年3月1日現在) |
代表者 | 取締役兼代表執行役社長 増田寛也 |
日本郵政の事業内容
日本郵政の事業内容は郵便事業と郵便局の運営です。ゆうちょ銀行やかんぽ生命は厳密には日本郵政の業務ではなく、グループ内企業であるゆうちょ銀行やかんぽ生命のサービスも郵便局で受けることが可能です。
- 郵便・物流事業
- 金融窓口事業
- 国際物流事業
郵便・物流事業
郵便などの信書事業を展開しています。現金を郵便で送る現金書留や、発送履歴を保障する内容証明郵便は公益性の高い事業であり、一部業務はみなし公務員として行う仕組みとなっています。また物流事業としてゆうパックの引き受け、郵便局内の広告業務などを展開しています。
郵便事業が国営だった頃の事業インフラを継承しているため、投資視点からもきわめて安定した事業です。ただ、年賀状や季節礼状の減少、民間物流会社の台頭などがネガティブ要因とされています。
金融窓口事業
物販事業と、生保損保・投信が中心です。郵便局に赴くと、贈答品などのパンフレットが並んでいます。また郵便局の職員は生命保険や損害保険の販売資格を有し、保険を販売しています。これらは当然郵便局の業務として行われています。
想定顧客としては60代以上、一定の資産はあるけれど繁華街の百貨店などを活発にまわる余裕はない層に対して、自宅に近い郵便局として商品を販売する目的があります。
一方で生命保険や損害保険の販売においては、資格はあれどスペシャリストとしての知識には欠ける担当も多く、時折ライフプラン上適切とはいえない商品が販売され、改善を促されています。
国際物流事業
2015年にグループ入りした物流事業です。もともとは東海・関西地方にあった民間会社を源流としています。2009年にオーストラリアのトール社に買収されましたが、2015年にトール社が日本郵政に買収されたことにより、グループ入りとなりました。
デジタル化の推進により今後の市場拡大の縮小が懸念される郵便業界や、少子化による影響と民間保険会社との競合によりレッドオーシャンとなる保険・投信業界と異なり、物流事業の拡大が期待されています。
インターネットを介したECの販売や2024年の物流業界の残業規制が後押しとなっています。一方で民間企業の事業領域と重複する部分も多く、民業圧迫の指摘が絶えないのもひとつの背景です。
日本郵政の業績推移|売上・経常利益
日本郵政の最新決算です。郵便利用の縮小やゆうパックの取扱い減少により、郵便・物流事業は縮小しました。また数年前に無理強いの金融商品販売が指摘され、積極的な金融商品の販売を控えた結果、保険・投信領域も売上が減少しています。
その一方でコンプライアンスに対応した営業体制への移行で人件費減少を実現しています。外部からの指摘を受け、ガバナンスを再構築している途中といえるでしょう。
円安は業績改善の一助になったようです。銀行業として外国為替売買損益は増加し、他領域の損失を穴埋めする形になりました。それらを総合しての微減といえます。
日本郵政の株価推移|過去7年のチャート
日本郵政の公式IRでは、上場時の2016年から現在に至るまで、約7年間の株価チャートを発表しています。それを見ると上場時から緩やかな下り坂にあるものの、2023年に入ったあたりから反転して、緩やかながら上昇基調に入っていることが読み取れます。
出典:日本郵政 株価情報
- 2016〜2023年にかけて株価が下落
- 2022〜2023年にかけて株価が上昇
2016〜2023年にかけて株価が下落
出典:日本郵政 株価情報
こちらは2019年から2023年の5年間にピックアップしたチャートです。この時期は金融商品の販売不祥事などが頻発していたものの、株価は底堅く、上場基調に転じていることがわかります。
背景としては運輸領域の強化です。インターネットを介した運輸のニーズが高まるなかで、既に強固な販売網を有している日本郵政が運輸業に本格参入する期待感が示されたといえるでしょう。
同様の民間事業者から民業圧迫という声が強いのも運輸事業に対してが多く、それだけ日本郵政が当該領域で事業をすることの優位性が強いといえます。
2022〜2023年にかけて株価が上昇
出典:日本郵政 株価情報
最新(執筆時)の2023年はとても株価が安定しています。先の決算資料のように業績がいいとは言えないために違和感がありますが、もともと流動株が少ないことが要因かと考えられます。
今後も安定基盤のもとで郵便や物流のDX取り組みが歓迎される可能性が高いため、業績が芳しくなくても株価は安定する可能性が高いのではないでしょうか。言い換えれば斬新な取り組みよりも、堅調な現事業の発展が投資家には望まれているといえます。
もちろん好業績への転換は、株価上昇要因となります。
日本郵政の株主還元|配当・自社株買い
日本郵政の株主還元を分析します。まず最近の配当と配当性向は以下のようになっています。株主優待についても抑えます。
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期 | 中間配当 | 期末配当 | 年間配当 | 配当性向 |
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第19期(24年3月)予想 | 25円 | 25円 | 50円 | 72.1% |
第18期(23年3月) | 0円 | 50円 | 50円 | 41.4% |
第17期(22年3月) | 0円 | 50円 | 50円 | 37.9% |
日本郵政 配当情報
※配当は1株あたり
- 日本郵政の一株配当・配当利回り推移
- 日本郵政の自社株買い推移
日本郵政の一株配当・配当利回り推移
日本郵政の利回り推移です。
日本郵政の利回り推移は低調です。業績が芳しくないことと、主業務である郵便・金融商品が下落基調であることが、背景になっていると考えられます。
物流業の挽回で上昇基調に転じる可能性も無くはありませんが、物流は日本を代表する民間企業でもあるため、一筋縄ではいかないでしょう。
郵便網を有している点と、高齢者層に名前が通っている点(民間企業であるかどうかは別として)から一歩抜けることが、配当回復のきっかけとして期待されています。
日本郵政の自社株買い推移
2023年5月、日本郵政は取締役会において、自己株式の取得を実施しました。
取得対象株式 | 普通株式 |
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取得株式総数 | 3億4,600万株(発行済株式総数の10.0%) |
取得価額総数 | 3,000億円(上限) |
取得期間 | 未定 |
取得方法 | 立会外買付および立会買付 |
出典:日本郵政 IR
3000億円の自社株はとても大規模なため、効果が注目されています。
日本郵政の株価はなぜ安いか理由を解説
日本郵政の株価はなぜ安いのでしょうか。複数の点に分けて理由を分析していきましょう。共通するのは業績の見通しと、数年に一度表面化するマイナスのニュースだと考えられます。
- 5年後に何が牽引事業になっているか見通せない
- 金融商品取り扱いとコンプライアンス不足
- 競合他社や競合サービスが想定されない
5年後に何が牽引事業になっているか見通せない
決算や株価のところでも分析しましたが、郵便や金融がデジタル化の影響を受けています。また取扱者のコンプライアンス低下も危惧され、業界全体の品質向上に逆行している印象さえ持ちます。期待できるのは物流ですが、大きな対応馬となる民間企業があるのが実情です。今後日本郵政の主要顧客になるであろう50代前後はネガティブなニュースに敏感であり、足が遠のくことも危惧されます。
ならば5年後を見据えた新規事業に着手しているかといえば、もともと国営だったこともあり、意思決定やトライアルのスピードに疑念が生じます。現在の株価を支えている安定性に嫌疑が生じないことを願いたいと考えます。
金融商品取り扱いとコンプライアンス不足
保険や証券などの金融商品業界はコンプライアンスにとても敏感になっています。ところが日本郵政を主語に時折報じられるニュースを見ていると、代々前提で思わぬ二度見するような取り組み姿勢が目立ちます。
最近はコンプライアンスの事故こそ報じられなくなってきましたが、投資家にとっては強いリスク要因であることは間違いないでしょう。人材の内部育成も大切ですが、IFAなどの外部人材と連携を取り、品質を向上させていく取り組みが大切ではないかと感じます。
これは保険に関しても同様で、スペシャリストとしての保険人材と提携を組み、顧客と向き合っていく姿勢が大切であるように感じます。
競合他社や競合サービスが想定されない
最後の理由はライバルの不在です。通常事業会社の株価は競合と比較し優劣が決まります。株価と業績を踏まえたうえで、その株価が適切か否かという議論に移ります。その点、日本郵政は競合がありません。
郵便事業ならA社、物流ならB社という単体での競合はありますが、事業会社全体として比較するのは難しいです。
そのため新たな取り組みを打ち出したときに、それがどこまで自社にとって、業界にとってインパクトのあるものなのか投資家が判断することが難しく、株価への反映が鈍くなっている側面もあるように思います。
このあたりは日本郵政のIRやブランディングを再整備することで解決の糸口となる点もありそうです。
2023年6月、日本郵政が保有する楽天の株価下落により巨額の特別損失を計上
これらのほかにもリスクがあります。2023年3月、楽天モバイルで苦戦する楽天の株を有している日本郵政は、同社の株価下落に対し特別損失を計上しました。投資額が1500億円で損失計上が850億円のため、ほぼ半額近くともいえる下落です。
民間の上場企業とはいえ政府が株主の企業がひとつの通信会社に巨額投資し、大きな損失を得ることは看過できるものではありません。日本郵政は上場企業のため、投資もひとつの責務ではありますが、今後は分散した投資とリスクヘッジが叫ばれることでしょう。
日本郵政の株価に対する投資家の口コミ
日本郵政の株価は今後どうなっていくのでしょうか。
日本郵政は、自社株買いでも上昇勢い増さないし、9月から配当金が来年3月と分割になるから9月権利月持ってればもらえるのだが...
別の良いのあるだろうと...
粘るか迷ったが、今の株価のままで自社株買い終わったら...
9月はまだ良さそうな株の押し目買い出来るかも?っと余力増やすことにした。引用:X
日本郵政を国有化し、政府が全株式を保有すべきです。同社は郵便サービスの利便性と、職員への正当な報酬支払いを実現すれば良いのです。民営化で、国際金融資本の株式買占めによる外資化や、コスト削減等による株主利益の最大化(=株価上昇・高配当の実現等)を目指しても仕方が有りません。
引用:X
6178 日本郵政 8月31日 野村證券が投資判断「A」継続で、 目標株価も1234円から1683円に引き上げている。買い材料視されている。
引用:X
日本郵政が1200になってた。 自社株買いの効果だけでなく、ゆうちょとかんぽの株価が堅調なのも上がった理由かな。 長期金利はまだ下がりそうにないし、しばらく放置しておこう。
引用:X
楽天は、NTTと同じく、国のお金が入りまくった日本郵政という独占的インフラ企業から1500億円もの出資を受け、株価低迷でその1500億円を850億円の減損で特別損失を出し、半分程度の価値にしちゃってるんですけどね。これも国民の財産を傷つけ、国民負担を生じさせてませんか?
引用:X
口コミ界隈では堅調な株価を評価する一方、楽天株の購入からの評価損によるマイナスの印象は著しいものです。今後も楽天社の状況次第で再度注目を浴びることも考えられます。
日本郵政の株価は今後どうなる?
日本郵政の株価は今後どうなっていくのでしょうか。今後の推移見込みを分析します。数年前は変動性も高かったものの、2022年以降は上下幅も低く安定しています。この流れが続くか、変動するかは今後の大きなポイントとなるでしょう。
- 社会インフラとして再評価されれば上昇要因
- 海外に高品質クオリティの郵便事業を輸出
社会インフラとして再評価されれば上昇要因
やはり国が出資し社会インフラを抑えているという前提は大きいと考えます。社会インフラを抑え、そこからチャレンジングとして様々なサービスを生み出していけば、十分に再評価される銘柄になるのではないでしょうか。広報やIRが重要と経営陣が気づくことで、転換点となっていくと考えられます。
その時に重要になるのは、再発が起こらないと誓った金融商品のコンプライアンス問題です。まさに自浄努力により見直され、日本郵政に相談しても大丈夫と市場が気づくことで、大きなステップアップに繋がります。
海外に高品質クオリティの郵便事業を輸出
日本郵政は海外の企業に対するM&Aも活発に行っています。郵便事業は国の事業として展開していますが品質が満たないところも多く、明治時代より築いた日本の郵便技術は垂涎の的です。
日本の新幹線や鉄道がパッケージで輸出できたことと同じく、郵便も海外輸出の可能性を検討してもいいかもしれません。それにより多くの方は気が付かなった、事業としての日本郵政の新しい武器が生まれるかもしれません。
それも郵便のみではなく、物流も兼ねた輸出が期待されます。
日本郵政の業績・株価・配当についてまとめ
日本郵政の株価についてまとめました。長期間にわたって株価が安定しており、財務状況を反映していない印象が強い銘柄ですが、今後は不透明です。企業が保守的に構えるのではなく、チャレンジしていくことによって株価推移も安定し、配当も見込めると考えられます。強固な地盤だからこそ取り組める日本郵政の挑戦に期待したいものです。
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