武田薬品の企業概要

武田薬品の企業概要

武田薬品とは、国内最大手の製薬会社で、海外でも総売上高で11位の規模です(出典:日本製薬工業協会)。以前は「大衆薬」と呼ばれる処方箋なしで購入できる薬として「アリナミン」を手がけていましたが、現在は武田薬品では製造していません。新型コロナウイルスのワクチンを製造していることもあり、社名を聞いたことがある人は多いでしょう。

企業概要は下表の通りです。

(2023年3月末時点)

企業名武田薬品工業株式会社
設立1925年(大正14年)1月29日
資本金1兆6762億円
従業員数5,149名(単体)、47,347名(連結)

武田薬品の事業内容

武田薬品の事業内容

武田薬品の事業内容は、HPによると「医薬品等の研究開発・製造・販売・輸出入」とあり、医薬品の専業企業です。医薬品業界は、薬局やドラッグストアで購入できるOTC医薬品(大衆薬)と医療用医薬品の2つに大きく分けられます。医療用医薬品は更に新薬と後発医薬品(ジェネリック医薬品)に分けられ、武田薬品は新薬の医療用医薬品を製造しています。

武田薬品は国内では売上トップであり、研究開発に大きな投資をしています。そのため商品種類は他の製薬会社に比べて多いのですが、先に述べたように新薬開発は成功確率が低いため、ある程度研究開発分野は絞る必要があります。

武田薬品は、消化器系・炎症性疾患、希少疾患、血漿分画醒剤、がん、神経精神疾患、ワクチンを重点領域として定めています。

武田薬品の業績推移|売上・営業利益

武田薬品の業績推移

武田薬品の売上は、下のグラフの通り毎年増加傾向にあります。一方、当期利益は2019年度に大きく減少しています。

これは、2018年5月に発表したアイルランドの大手製薬会社シャイアーを買収した影響によるものです。日本企業によるM&Aの額としては過去最大で約6兆8千億円でした(出典:日経新聞)。これは2024年1月時点でも破られていない記録です。

この買収の結果、売上は3兆円を突破しましたが、有利子負債による利払負担が増え利益を圧迫しました。その後、金利の固定化や借入期限の延長等の財務施策により、負債による負担は軽減が図られています。

武田薬品の業績推移

武田薬品の株価推移|過去10年のチャート

武田薬品の株価推移

次に株価チャートを見てみましょう。武田薬品が企業体質を大きく変えたのは、外国人CEOであるウェバー氏が着任した2015年です。主要マーケットを海外に定め、M&Aを通じて海外比を高め、現在では売上の8割以上が海外です。ここでは、ウェバー氏がCEOになって以降の株価の動きを追ってみます。

ポイント

  • 2015年〜2017年にかけて株価が低迷
  • 2018年〜2023年にかけて株価が下落

2015年〜2017年にかけて株価が低迷

ウェバー氏のCEO就任というイベントは、株式市場では好感されなかったようです。2015年度に下落しているのは、一定期間は企業構造の改革が進められ、収益に直結しないと予想された可能性があります。

その後、2017年にアメリカのアリアド・ファーマシューティカルズを買収し、グローバル化の進展が明確になると、株価は上昇に転じています。アリアド・ファーマシューティカルズは、現在も重点領域とされているがん治療薬に強みを持つ企業で、この分野での急成長を期待されました。

武田薬品の株価推移

2018年〜2023年にかけて株価が下落

2018年以降、株価は下落しています。最も大きい要因はシャイアーの買収です。買収は2019年ですが2018年から準備に入っています。本来は成長のためのM&Aであり、株価は上昇しても良いはずですが、実際は大きく下げています。

その理由は、やはり買収の規模です。6兆8千億円という日本で過去最大のM&Aは、期待よりもリスクと受け取られました。シャイアーが元々負債比率の高い会社であったこともあり、財務の健全性が悪化しました。

その後、自社ビルの売却等、資産の圧縮や整理を進めて財務の健全化を図ってはいますが、収益獲得に貢献する動きが見えないことから、株価は低迷したままです。

武田薬品の株価推移

武田薬品の株主還元|配当・自社株買い

武田薬品の株主還元

武田薬品の株主還元施策を、配当や自社株買いの動きから確認します。武田薬品は投資家の間では高配当銘柄として人気がありますが、過去の傾向を含め、実態はどうでしょうか。

ポイント

  • 武田薬品の一株配当・配当利回り推移
  • 武田薬品の自社株買い推移

武田薬品の一株配当・配当利回り推移

武田薬品の1株あたりの配当金は、下のグラフの通り2009年から一定です。配当利回りは2%〜5%の間で推移しています。プライム市場2%程度であることから、高配当銘柄と言えます。

武田薬品の一株配当・配当利回り推移

安定した配当金と高い配当利回りは、投資家にとっては一見魅力に映りますが、ここには問題が潜んでいます。下の連結キャッシュフロー計算書を見ると、決して潤沢なキャッシュがあるわけではないことが分かります。

つまり、無理して配当を払っているような状況であり、健全とは言えません。減配した途端に投資家に嫌気され更に株価が下がることや、創業家の抵抗等があるでしょうが、安定した経営のためには配当金は下げる方が望ましいです。

武田薬品の自社株買い推移

武田薬品は、2021年に13年ぶりに自社株買いを1000億円規模で実施しました。実施の理由として、潜在的な企業価値に対して株価が割安であることを挙げています。実際、株価は2022年に入り若干持ち直し傾向を見せています。

武田薬品の自社株買い推移

また、今後も「資本効率の向上と株主還元の拡充のため、自己株式の取得についても適切な場合に取り組む」ことが表明されており(出典:武田薬品 HP)、配当と合わせて株主還元施策は続きそうです。ただ、やはり投資家として注目すべきは稼ぐ力でしょう。

武田薬品の株価はなぜ安い?

武田薬品の株価が安い理由

武田薬品は2022年に入ってから若干株価が上昇傾向にありますが、いまだに改善と言えるほどの上昇とは言えない状態が続いています。なぜ安いのか、その原因をいくつかの理由から探ってみます。

ポイント

  • 収益に直結する新薬を送り出せていない
  • シャイアー買収の効果が表れていない
  • シャイアーが負担で新たな買収が難しい

収益に直結する新薬を送り出せていない

製薬会社は、画期的な新薬を生み出すことができれば巨額の利益を獲得できますが、一定期間を過ぎると特許が切れるため、大きく収益が悪化することがあります。武田薬品の場合、2025年3月に注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬の「ビバンセ」と、高血圧症治療薬「アジルバ」が特許切れになります。

それを補う形で新薬を市場に出せれば良いのですが、期待されていた睡眠障害の治療薬は安全上の問題があり治験が中止されました。

治験は臨床試験とも呼ばれますが、通常3〜7年ほどかかると言われ、収益獲得までは長い期間が必要です。

武田薬品も別の睡眠障害の治療薬等が治験に入っていますが、画期的な新薬が登場する気配がないため、株価は低迷しています。

シャイアー買収の効果が表れていない

武田薬品にとってシャイアー買収は、財務的に大きなチャレンジでした。それにもかかわらず、マーケットはこの買収が成功であったとは見做していません。業績の観点でも、買収後に利益が拡大する様子は見られません。

シャイアーやアリアド・ファーマシューティカルズの買収で、がんや希少疾患等、重点領域における新薬候補のパイプラインを手に入れたのは確かです。しかし、治験を通過してグローバルマーケットに投入され稼げる新薬が出現していないことから、投資家にとってはシナジーを生み出していないと捉えられ、株式を購入する理由になっていないと考えられます。

シャイアーが負担で新たな買収が難しい

新薬を生み出すには、地道な研究開発が基本ですが、短期的に新薬候補を得るにはM&Aが常套手段です。では、武田薬品にとって現在M&Aが手段になり得るかというと、すぐに大規模なレベルでは難しいでしょう。

その理由はやはりシャイアーです。財務的には大きな構造改革を進めて健全性は改善してきていますが、武田薬品の経営陣はM&Aによりシナジーを発現させる能力がないと投資家に認識されています。

仮に新たな製薬会社を買収しても、稼ぐ力が大きく向上すると示せなければ、リスクの増大を嫌って株価は下がる可能性すらあります。このような状況下で、新たな買収という手段が取りにくいということが、株価が上がらない要因の1つと言えます。

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詳細な投資分析によるバリュー投資を中心に実践しており、短期的な利益追求ではなく安全性を追求しながら中長期的な利益を求めているヘッジファンド。

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武田薬品の株価に対する投資家の口コミ

武田薬品の株価に対する投資家の口コミ

ここから、実際に武田薬品の株式を保有している投資家の声を口コミで確認してみます。

しっかり配当出してます。改めて御社は日本のお薬企業のトップランナーだと確信しました。

引用:Yahoo!ファイナンス

株価低迷の元凶、禿げウェーバーなどに報酬やらんでええ‼️

引用:Yahoo!ファイナンス

株は安く買って高く売る事が基本だがもう一つ長期所有して配当生活を満喫するのも
投資家としては有りだネ!その意味では武田薬品の長期間の高配当は嬉しい株です
なぁ~今後も頑張ってこの高配当を維持していただきたいと念じています。

引用:Yahoo!ファイナンス

ここの有利子負債中途半端じゃねえぞ。
どこかの国家予算よりも巨額じゃ。
下がって当然ですよ。まだまだ下がります。
心配無用です。心を大きく持って暮らしましょう。
ホントに大丈夫です。

引用:Yahoo!ファイナンス

株価良く戻してきたね。大したもんだ。

引用:Yahoo!ファイナンス

口コミ全体のトーンとしては、期待ほど上昇していない株価への懸念が多いです。シャイアー買収による財務面でのリスクや、買収による効果が見えないことへの不安が散見されます。

また、高配当に引かれ購入した投資家が、買値に戻っていない株価に対し不満を持っていることも見てとれました。但し、2024年に入り急上昇している日本株全体の動きに連動して武田薬品の株価も上昇していることから、更なる上昇への期待も同時に見受けられます。

但し、上昇の要因は日本株全体の上昇に依存しており、武田薬品固有の買い材料となる情報をもとに新たに購入を検討している口コミはないようです。

武田薬品の株価は今後どうなる?将来性を予想

武田薬品の今後の株価

武田薬品の株価は今後どうなるでしょう。想定されるシナリオをもとに、今後の見通しについて考察します。冒頭で述べた通り、製薬会社は新薬を生み出す研究開発と、M&Aを行うだけの財務的体力があることが鍵となります。

ポイント

  • パイプラインから画期的な新薬が生まれれば株価は上昇
  • 新薬候補を持つ企業を獲得できれば株価は上昇

パイプラインから画期的な新薬が生まれれば株価は上昇

世界の製薬会社は、巨額の研究開発費と新薬パイプラインの拡充のため、規模を追求してきました。売上ベースで世界一位のファイザーは武田薬品の3倍以上の規模となっています。武田薬品も規模を追求することで国内では売上首位ですが、海外市場で戦う上ではまだ体力が足りていない状況です。

出典:AnswersNews

また国内だけで見ても、研究開発費は第一三共、アステラスに負けています。

製薬業界研究開発費ランキング

この情報だけを見ると将来性に不安がありますが、これまでのM&Aの成果もあって新薬のラインナップを多く保持していることも事実です。そして、新薬開発は何が成功に結びつくか分からないことから、下の表のどれか1つでも大当たりすれば、株価は自ずと上昇します。予測は難しいので、治験に関する情報を追う必要があります。

臨床開発パイプライン一覧表

新薬候補を持つ企業を獲得できれば株価は上昇

製薬会社のもう1つの鍵である財務的な体力は、M&Aによる買収余力の有無も示します。革新的な新薬候補を持つ製薬会社を見つけるには、目利き力も必要です。シャイアーの買収が失敗と言われたのは、財務的な体力を削ぎ、シナジーを生み出す目利き力がなかったと判断されたからです。

しかし、武田薬品はこの4年で構造改革を進め、次の買収に備えています。収益に直結するような新薬候補を持つ会社を買収できれば、もちろん株価も跳ね上がるでしょう。

ただしM&Aもギャンブル的な要素が強いので、一攫千金を狙う投資家には良いでしょうが、将来性は非常に読みにくい銘柄とも言えます。

武田薬品の業績・株価・配当についてまとめ

ここまで武田薬品の株価について、事業内容や株主還元施策等から考察してきました。シャイアー買収による負の側面から脱し切っていない中、「たこ足」と呼ばれる利益に合わない配当をしていることが分かります。

医薬品は好不況によらないディフェンシブ銘柄と言われるので、投資家にとって他のポートフォリオとの兼ね合いで保持する選択はあるかもしれませんが、武田薬品という個別銘柄に注目すると、買い材料は乏しいでしょう。

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