第一章: 過去の大統領選挙が日本経済に与えた影響

第一章: 過去の大統領選挙が日本経済に与えた影響

日本とアメリカは、長期にわたって経済的にも密接な関係を築いてきました。現在こそ中国に次いで第2位の地位にあるものの、依然アメリカとは日本の輸入・輸出相手国として人・モノ・カネの活発なやり取りを続けています。

このようなデータからもわかるように、アメリカは日本と密接な関係を築いている国であるため、その国のトップ=大統領が誰になるかは、両国の関係の在り方にも大きな影響を及ぼすはずです。

過去においても、アメリカ大統領が誰になるかによって、日本の経済・財政政策は大きな影響を受けてきました。

たとえば、第40代大統領のロナルド・レーガン大統領は「小さな政府」を掲げ、政府の経済活動への介入を最小限にし、市場原理に基づく自由な競争を促しました。そして、第87代首相の小泉純一郎首相が在任中に掲げた構造改革は、レーガン大統領が提唱した「小さな政府」に影響を受けたものであると言われています。

一方、第100代・101代首相の岸田文雄首相は、小泉首相が掲げた構造改革とは逆の「新しい資本主義」を掲げました。過度な競争が行われないよう、政府が積極的に経済活動に介入するのが特徴です。そして、この政策は第46代大統領のジョー・バイデン大統領が掲げる「バイデノミクス」との類似性が指摘されています。

2022年5月23日に行われた日米共同記者会見では、岸田首相がこのように発言しているので、何らかの影響を受けていると十分に考えられるでしょう。

私の進める新しい資本主義に関し、バイデン大統領から改めて力強い支持を頂きました。中間層重視の政策を掲げるバイデン大統領と協力して、主要国に共通する経済政策の大きな潮流を作っていきたいと思っています。

出典:令和4年5月23日 日米共同記者会見 | 総理の演説・記者会見など | 首相官邸ホームページ


そして、今回のアメリカ大統領選挙でも、共和党候補のドナルド・トランプ氏と、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領のどちらが当選するかによって、日本に及ぼす影響も大きく異なります。現職である第46代大統領のジョー・バイデン大統領は民主党に所属しているため、ハリス副大統領が当選した場合は、ある程度現在の貿易協定・環境政策が踏襲されるでしょう。

しかし、トランプ氏が当選した場合、潮目が変わる可能性が高くなります。詳しくは後述しますが、掲げる政策が大きく異なるためです。

現時点(2024年8月)では、大統領選がまだ行われておらず、結果も出ていない以上、日本企業の対応と課題は不透明な部分があります。トランプ氏とハリス副大統領のどちらが当選したとしても、日本企業には何らかの形で影響が及ぶのは避けられない以上、現時点では正確な情報を収集し、検討して備えることが最善策であると言わざるを得ないでしょう。

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第二章: 注目される政策分野における日米関係の変化 - 農業と自動車産業を中心に -

第二章: 注目される政策分野における日米関係の変化 - 農業と自動車産業を中心に -

農業、自動車産業においても、トランプ氏とハリス副大統領のどちらが当選するかによって、今後の動向は大きく異なります。

トランプ氏の政策は一貫して「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」を掲げており、農業・自動車産業に対する政策においてもこれは変わりありません。

主要な着目点となるのがTPP(環太平洋パートナーシップ協定)です。簡単にいうと、加盟国の間でサービスや投資の自由化を進める協定ですが、農産物に関しては8割以上の品目で関税を撤廃することを目指していました。

2016年2月に、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、日本、マレーシア、メキシコ、ペルー、アメリカ、ベトナムの12か国が署名をしましたが、トランプ氏は大統領就任後の2017年1月23日に離脱するために大統領令に署名しています。同氏は政策の1つとして保護貿易主義を掲げている以上、関税の自由化が盛り込まれているTPPとは相容れないためです。

アメリカがTPPから離脱したことにより、日米間の農産物の貿易にも影響が及びました。わかりやすい例の1つが牛肉で、アメリカから日本に牛肉を輸入する場合、本来の関税率は25.8%ですが、輸入量が一定基準を超えた場合は30日間38.5%に引き上げられます。

しかし、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドから日本へ牛肉を輸入する場合はこのような措置は行われないため、かかる関税も低く抑えられます。これらの国は、アメリカ抜きで発効した「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)」に署名しているためです。

バイデン大統領へ政権が移った後もCPTPPには参加していないため、後継者であるハリス副大統領とトランプ氏のどちらが当選したとしても、動向を深く見守る必要がありそうです。

なお、トランプ氏の有力な支持基盤は農家という背景もあり、在任中にはさまざまな支援策を講じてきました。分かりやすい例が、米国農務省の農家に対する補助金額で、新型コロナウイルス感染症が大流行した2020年には500億ドルもの補助金が投入されました。しかし、バイデン大統領が就任した2021年には金額が急激に少なくなっています。

トランプ氏が大統領に返り咲いたら、補助金の額が増えていく可能性は極めて高いでしょう。もちろん、日本をはじめとした外国からの輸入に対する関税を引き上げるなど、アメリカを優遇する政策も打ち出されていくはずです。

自動車産業に対する取り組みも、トランプ氏とバイデン大統領とでは大きく異なります。争点の1つがEV(電気自動車)です。

現職のバイデン大統領は、環境問題に関心が高く、排ガスの削減にも役立つEVの導入に積極的です。2021年8月5日には2030年までに新車の半数以上をEVもしくはFCV(燃料電池車)にする大統領令を発令していました。

さらに温室効果ガス排出削減規則(GHG)を設け、自動車メーカーにも基準を満たせるようEVの割合を増やすよう義務付けてきましたが、アメリカの石油業界団体・米石油協会(API)が差し止め訴訟を提起するなど反発も強いのが実情です。

一方、トランプ氏はこれまで「政権のEV奨励が雇用を奪う」など、EVに対する強い反対姿勢を示していました。日本の大手自動車メーカー・トヨタやフォードなどのアメリカの大手自動車メーカーも、EVだけではなく、ハイブリッド車(HV)への投資も行うなど、トランプ氏再選に向けて軌道修正を行っています。

ただし、トランプ氏はアメリカの大手電気自動車メーカー・テスラの最高責任者、イーロン・マスク氏から献金を受けているという報道もあり、仮に当選したとしても、ある程度はEVに配慮した政策を展開していく可能性はあるでしょう。

なお、日本との関係で看過できないのが、パリ協定とGHG規制です。脱酸素に肯定的なバイデン大統領は、トランプ氏が大統領在任中に離脱したパリ協定に復帰し、前述の通りGHG規制も設けました。この影響で、自動車メーカーは新車販売におけるゼロエミッション車(ZEV、EV・燃料電池車・プラグインハイブリッド車などが該当)の販売比率を引き上げる必要がありました。対応できなければ多額のペナルティを払わなくてはいけません。

しかし、トランプ氏が再選すれば、パリ協定からの離脱およびGHG規制の緩和が行われる見込みが出てくるので、ある程度の時間的猶予は生じるでしょう。一方、ハリス副大統領が当選した場合、バイデン大統領の政策をある程度は踏襲すると考えられるので、時間的猶予はあまり残されていないかもしれません。

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第三章: 世界経済におけるアメリカの役割の変化と日本への影響

第三章: 世界経済におけるアメリカの役割の変化と日本への影響

世界経済におけるアメリカの役割の変化と日本への影響について見逃せないのが、米中関係です。中国は、国際社会や同国内のメディアでは自国が社会主義であると主張しているものの、実際は資本主義ともいえる独特な国として知られています。日本やアメリカ、ヨーロッパとはまったく異なる政治経済体制を敷いているものの、積極的な外国資本の導入や農村部からの出稼ぎ労働者の活用を通じ、経済大国としての地位を築いてきました。

この状況に危機感を覚えたのがトランプ氏で、同氏は在任中の2018年に、中国に対し、アメリカへの輸出において高い関税を課す決定を下しました。報復措置として、中国も、アメリカに対し中国への輸出において高い関税を課す決定を下しています。この状況は「米中デカップリング」「米中貿易戦争」と呼ばれ、話題になりました。

バイデン大統領が選出された後も、アメリカと中国の関係は緊張が続いています。2022年には半導体などの輸出規制、2023年には先端分野への対中投資規制を行うなど、中国に依存しない経済体制の確立を目指しているのが特徴的です。

アメリカのこの動向は、他の国にも影響を与えました。アメリカと比べ、中国との関係を重視しているヨーロッパでは、完全な分断を意味する「デカップリング」ではなく「デリスキング」という考え方に重きを置いています。

「デリスキング」とは、もともとリスクの低減を図ることです。転じて過度な中国依存から脱却し、同国への先端技術の流出防止を図りつつ、経済関係自体は維持していくことを指します。

2023年5月に行われた広島サミット首脳宣言にも「我々は、デカップリング又は内向き志向にはならない。同時に、我々は、経済的強靱性にはデリスキング及び多様化が必要であることを認識する」という文言が盛り込まれたことで話題になりました。

いずれにしても、アメリカ、ヨーロッパで「脱中国依存」の動きが進んでいることは、日本にも影響を及ぼしています。中国に現地法人や工場を構え、そこで生産した製品をアメリカなど世界各国に輸出している日本企業は決して珍しくありません。かねてから、人件費の高騰や人権問題、地政学的リスクを理由に中国から拠点を移す企業はありましたが、デカップリングやデスキリングによりその傾向がさらに強まりました。企業によっても移管先はさまざまですが、ベトナム・タイなどの東南アジア諸国やメキシコなどが選ばれています。本国回帰ということで日本に拠点を移す企業もありました。

トランプ氏とハリス副大統領のいずれが選ばれた場合でも、中国とアメリカ間には緊張が続く可能性が高いです。日本も、アメリカやヨーロッパに追随し、脱中国依存を前提に企業活動を進めていく必要があるでしょう。

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まとめ: 日本経済が進むべき道 - 大統領選挙後の世界を見据えて -

まとめ: 日本経済が進むべき道 - 大統領選挙後の世界を見据えて -

日本は、エネルギー・資源・食料の制約や、少子高齢化・人口減少・地域社会の疲弊など、構造的な問題を抱えています。これらの問題が解決されなければ、国の収入(歳入)は増えず、支出(歳出)が増えていくばかりです。将来的に、年金給付水準の見直しや付加価値税率の引き上げなど、社会保障の給付の削減を余儀なくされる可能性が出てくるでしょう。

アメリカ大統領選が、共和党と民主党のどちらに軍配が上がるのかは不透明な部分があります。当初、有利と言われたのは再選を目指すトランプ氏を擁する共和党でしたが、バイデン大統領に代わりハリス副大統領を擁立した民主党にもチャンスは十分にあるはずです。そして、どのような結果になったとしても、農作物への関税やEV自動車への切り替えなど、日本が意識しなくてはいけない問題は山のようにあります。

今回紹介したアメリカを含め、世界にはさまざまな国があり、経済活動を営む上では関わりを絶つことはできません。内閣府「令和元年度 年次経済財政報告」によれば、グローバル化が進む中での日本経済の課題として、以下のような記述がありました。

日本経済が持続的な成長を実現していくためには、グローバルなビジネス環境の変化やイノベーションの進展に適応するとともに、日本の得意分野での存在感をさらに高めることを通じて世界で稼ぐ力を向上させ、潜在成長力の強化につなげていく必要がある。

環境の変化に対応しながら、自ら稼ぐ力を付けることーこれが、アメリカ大統領選の結果にかかわらず、日本が目指すべき姿勢の1つかもしれません。

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